大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和26年(う)1774号 判決

控訴人 被告人 李千吉

弁護人 石橋重太郎

検察官 納富恒憲関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年及び罰金五千円に処する。

右の罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原判示第一事実につき被告人に対し刑を免除する。

理由

弁護人石橋重太郎の控訴趣意は記録編綴の同人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

同控訴趣意一(事実誤認)について。

窃盗犯人が対価を得る目的で持参した賍物を、これが賍物であることの情を知つた者において、後日その窃盗犯人に対価を支払う意志を以て、これを取得したときは、該取得者において、後日その対価を一方的に定めて支払つた場合と雖も、賍物収受罪が成立することなく、賍物故買罪が成立する。けだし、賍物収受罪は賍物であることの情を知りながら無償でこれを取得した場合に限り成立するのに反し、賍物故買罪は賍物であることの情を知りながら売買、交換等の外有償でこれを取得することによつて成立し、その対価額について当事者間に合意のあると否とは賍物故買罪の成立に何等の影響を及ぼすものではないからである。今原判決が判示第一の事実認定に供した所論の各供述調書及び杉下芳夫が作成した申立書を見ると、論旨摘録のごとき記載の存することを認めることができるけれども、これ等の証拠に原判示第一の認定に供したその他の証拠を綜合すると、右杉下芳夫及び被告人の息子春山秀吉の両名は共謀して、昭和二十五年十月二十二日頃原判示倉庫内で窃取したケーブル線二十六米を売却するため被告人方に持参したところ、被告人はこれが賍物であることの情を知りながら、後にその対価を支払う意志の下にこれを取得した上、その翌日被告人方を訪れた右杉下芳夫に対し、右春山秀吉の面前で被告人において一方的に賍物の対価と定めて金千二百円を支払つた事実を認められるので右被告人の所為は前説示の理由により賍物故買罪が成立することはいうを俟たないところであるから、原判決が原判示第一の事実を認定したのはまことに正当で、原判決には所論のような事実の誤認はない。論旨は理由はない。

同控訴趣意二(法令適用解釈の誤)について。

しかし、原判示第一事実は被告人が杉下芳夫及び被告人の息子春山秀吉の両名から同人等が他から窃取した賍物を、これが賍物であることの情を知りながら故買したものであつて、その認定に誤がないことは前点に対する判断によつて明らかであるから、右賍物を被告人の息子春山秀吉のみから収受したものとする前段の論旨は理由はない。

次に原判示第一事実については刑法第二百五十七条第一項の適用を受け刑の免除をすべきものであるとの論旨につき、案ずるに、窃盗本犯の共犯者中に賍物罪の犯人と刑法第二百五十七条第一項に規定する身分関係のある者があつて、その窃盗犯人が賍物罪に関与したときは、かような関係のない他の窃盗共犯者が共にその賍物罪に関与したときと雖、賍物罪の犯人に対し同法条を適用してその刑を免除すべきものである。けだし、刑法第二百五十七条第一項は同条所定の身分関係あるものの間において賍物罪に関する罪につき、それ等の関係あるものに対して刑を科することは人情に反するものとする精神に立脚するものであるから、窃盗の共犯者中刑法第二百五十七条第一項所定の身分関係あるものが賍物罪に関与したときはその身分関係のない窃盗共犯者がこれに関与すると否とによつてその所遇を左右すべきゆえんを見出すことができないからである。ところで原判示第一の窃盗共犯者の一人春山秀吉が被告人の息子であることは既に前点において判断したとおりであるから、原判示第一の事実については刑法第二百五十七条を適用し被告人に対し刑を免除すべきものであるのに拘わらず、ことここに出でなかつた原判決は法令の適用を誤つたもので、しかも原判決は右事実と、その他の原判示事実とを併合罪の関係があるものとしているので、右の法令適用の誤が原判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は刑事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免れない。この点の論旨は理由がある。

そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠により直ちに判決をすることができると認められるので刑事訴訟法第四百条但書により更に判決をすることとする。

そこで原判決が認定した原判示第二乃至第四の事実につき法律を適用すると、右の事実は各刑法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するところ、被告人には原判決が認定した前科があるので同法第五十六条第五十七条に則り右懲役刑につき各累犯の加重をし、なお以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条に従い犯情の重い原判示第二の罪の懲役刑に同法第十四条の制限内において法定の加重をし、又右罰金刑については同法第四十八条第二項を適用し所定の罰金額を合算し、右の刑期及び罰金合算額以下の範囲内で被告人を主文の刑に処し、右の罰金を完納することができないときは同法第十八条により金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

次に原判示第一の事実は刑法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第二条第三条第二百五十七条第一項に該当するので被告人に対し、同事実については刑を免除することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石橋鞆次郎 裁判官 藤井亮 裁判官 竹下利之右衛門)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例